講義の合間の空き時間やアルバイトのない休日などにぜひ訪れてみたいスポットをご紹介! 今回は、杉並区・高円寺駅から徒歩5分、商店街のわき道を入った古い建物の2階にある「アール座読書館」。なんとここは店内全体が“読書室”になっているおしゃべり禁止のお店なんです。
細長い階段を昇り、ドアを開けると広がっていたのは物語の中に迷い込んだような幻想的な空間!観葉植物やアンティーク調の机やソファ、手作りのステンドグラス風アクリルボードなどしばらくうっとりと佇んでしまいそうになります。水槽から聞こえる水音や床の軋みだけが響き渡る静かな店内です。
9種類の座席から自分だけの空間を選べる
まずは時間を過ごすための場所を選びましょう。座席は9種あり、席ごとにコンセプトが異なっています。
なかでもおすすめが大きな水槽が目の前に鎮座したアクアテラリウム席。熱帯魚がゆったりと泳ぎ、水草がゆらゆら揺れているようすを見ているだけで癒されます。
ほかにも、万華鏡スコープや金魚鉢、小さな鉱石博物館をイメージした席があります。混雑時以外は座席の移動は自由なので、いろんな座席を楽しめるのもうれしいですね。
料金は2時間ワンオーダー制(混雑時は最大利用3時間)。大きな声や長いお話、音が出る作業が禁止である以外は、基本的には自由に過ごすことができます。
メニューの冒頭には、店内の利用方法が詳しく説明されています。
メニューはドリンク中心。先に頼んでも、一通り店内を堪能してからでも良いそうです。注文する場合は、サッと手をあげるなどしてスタッフの方に合図しましょう。
各種コーヒーや紅茶、ジュースなどオーソドックスなメニューのほかに、中国茶などなにやらクセの強そうな飲み物のラインナップも豊富。味覚を刺激し、パッと感覚が研ぎ澄まされるような体験をしてほしいという願いも込められているそうです。
おすすめはラプサンスーチョン(600円)という中国茶。松葉をいぶして香りをつけた紅茶で、かなり独特な風味がするそう。メニューを見ながら、いつもとは違うメニューで気分を変えてみてはいかがでしょうか。
店内奥にある本棚には、小説・エッセイはもちろん、絵本や画集、旅行記など幅広いジャンルの蔵書約1000冊があります。ここからお気に入りを見つけてもよし、持参した本を読むもよし。座席に戻り、飲み物片手にしばし本の世界へと入り込んでしまいましょう。
お客さんの要望に応える形で“私語厳禁”ルールを厳格化
読書室というコンセプトや私語厳禁というルールは、どのように誕生したのでしょうか。店主の渡邊太紀さんに、「アール座読書館」誕生のきっかけや、店内での時間の過ごし方などについてお話をうかがいました。
――“読書室”という素敵なテーマのお店をオープンしようと思ったきっかけを教えてください。
若いころから、1人で喫茶店に行って読書する時間が好きだったんです。昔は「話してはいけない」というお店は音楽を大音量で流している音楽喫茶しか無かったので、雑音がほとんどしない静寂の空間を作りたいなと思ったのがきっかけです。
――テーマのある座席など、内装が素敵です。
ありがとうございます。テーマはずばり「森の中で読書」。読書と緑は相性が抜群なんです。昔よく行っていた信州にある山小屋でのんびり本を読んで過ごすのが好きだったので、その場所をイメージして内装を決めていきました。
先にやりたいことががっちりと固まっていたので、物件選びに苦労しましたね。都内で100件以上のテナント物件を見て回ったのですが、ここを内覧したときは一目ぼれでほぼ即決。晴れて2008年にオープンしました。
――そこから、インテリアアイテムなどを揃えられたんですか?
もともと部屋を改造するなど日曜大工が好きだったので、内装も自分で手掛けました。半年ほどかけて作り上げましたが、オープン後も少しずつ付け加えていったので、完成までは1年ほどかかっていると思います。
――手作りなんですね! ほかに例を見ないルールのお店ということで、大変だったことは?
開店当初は、お話はご遠慮いただいているということを理解してもらうことに苦労しました。実は当初、「大きな声はご遠慮ください」と今よりもゆるいルールだったんです。ところが、予想以上に静寂を求めて来店してくださる方が多くいらっしゃって、もっと「静かな店」というコンセプトを徹底した方が良いのではないかと考えました。
おしゃべりできるお店はほかにもたくさんありますが、静かな時間を作り出せるのは数少ない。「声高、長話はご遠慮ください」とより厳しくルール化し、お店としてのコンセプトを確立させていきましたね。
――お店にはどんな方が来店されるのでしょうか?
老若男女問わず、さまざまな年代の方がいらっしゃいます。9割以上がおひとりです。読書をしたり、お仕事や勉強といった作業をされたり、水槽や窓の外を眺めてらっしゃったりと思い思いに過ごしていただいています。
「忙しい日常から自分を自由にしてほしい」との思いからスタート
――アール座読書館を開業する前は、どのようなお仕事をされていたんですか?
主に飲食関係で、カフェスタッフや移動販売などを経験しました。不規則で忙しく、時間に追われる危機感に苛まれること多くて。そんなときはよく意識的に日常からあえて外れる時間、いわば現実逃避の時間を作っていました。
――その思いが、「アール座読書館」の原点になっているのでしょうか?
はい。店のコンセプトを決める時、来てくださる方にはもっと現実逃避をする時間を作ってほしいなと思ったんです。静かな時間のなかで過ごすことは、自分を忙しい日常から自由にしてあげられる。そのきっかけの一つが読書であって、水槽を見てぼーっとしたり、物思いにふけったりするだけでもいいんです。
このお店のイメージを持てたのも、若いころにぼんやりと思い描いていた空想が、次第に形になっていった結果だと思います。
――1人の時間の中で、自分自身と向き合うことも大切ですよね。
そうですね。最近の学生さんは一人になる時間を日常のなかに上手に取り入れられている方が多い印象です。お店にもよく10~20代の学生の方らしき方がいらっしゃって読書や勉強などをされていますよ。
高円寺にはほかにもカフェやレストランなど個性的なお店がたくさんありますし、講義や授業の合間や、お休みの日でもぜひいらしてみてください。
まとめ
日々の暮らしの中で、話し声や騒音のない静かな空間にいられる機会はなかなかないのではないでしょうか。静寂のなかに身を置いて、ぼんやりと何もしない時間を作ることができる貴重なお店です。自分自身と向き合う中で将来の展望を思い描いた渡邉さんのように、「アール座読書館」で自分だけの時間を楽しんでみてください!
[住所] 東京都杉並区高円寺南3-57-6 2F
[営業時間]13:30~22:30(土・日・祝は12:00~、ラストオーダー22:00)
※基本的に月曜定休
※2017年秋ごろまで平日のみ13:00~20:00